ViDA(VAT in the Digital Age)|EUのVAT制度がデジタル時代に向けて大きく変わる
越境ECの税務に携わっていると、常に制度の先を読むことが求められます。現在、EU VAT制度の最大の変革と言われているのが「ViDA(VAT in the Digital Age)」です。2025年3月に欧州理事会で最終合意に達したこの改革は、2030年代にかけて段階的に施行される予定で、越境ECセラーのオペレーションや税務コストにも少なくない影響を与えると予想されます。
ViDAとはなにか
ViDA(VAT in the Digital Age)は、欧州委員会が2022年12月に提案したEU VAT制度の包括的デジタル化改革パッケージです。2025年3月の欧州理事会での最終合意をもって法制化が確定しました。
背景には、EU加盟国のVATギャップ(本来徴収すべきVATと実際の徴収額の差)の深刻さがあります。欧州委員会の推計では、2022年のEU全体のVATギャップは約610億ユーロに上ります。このうち相当部分が、デジタル取引の不申告や越境取引の申告漏れによるものとされています。たとえばマルタのVATギャップは24.2%と加盟国中でも特に高い水準であることが知られており、加盟国全体として制度的な抜け穴を塞ぐ必要性が高まっていました。
大手ファームの間接税チームの分析によれば、ViDAは単なるコンプライアンス強化ではなく、EU VAT制度を「デジタルネイティブ」な仕組みに作り替えるものだとされています。従来の紙ベース・定期申告型から、電子インボイス・リアルタイム報告型への移行が核心です。
ViDAの3つの柱
柱1:Digital Reporting Requirements(DRR)/ 電子インボイスの義務化
ViDAの最も大きな変化の一つが、EU域内B2B取引への電子インボイス義務化です。2030年7月1日以降、EU域内を跨ぐB2B取引では、欧州標準(EN 16931)に準拠した構造化電子インボイスが義務化される予定です。さらに、こうした取引はリアルタイムまたは準リアルタイムで税務当局に報告することが求められます。
「電子インボイス」というと、PDF送付をイメージされるかもしれませんが、ViDAが求めるのはそれとは異なります。XMLやJSONなどの機械可読フォーマットで発行され、税務当局に直接デジタル送信される「構造化インボイス」です。EUではすでに独自の電子インボイスシステムを導入している国もあり、イタリアは2019年からSDI(Sistema di Interscambio)による義務化を先行実施、ポーランドはKSeF(Krajowy System e-Faktur)を段階的に導入中です。ViDAはこれらの国別システムとEN 16931基準の整合を図ることも課題の一つとされています。
越境ECセラーの観点では、EU法人顧客向けのB2B取引が多い場合、2030年に向けたシステム対応が必要になる可能性があります。インボイス管理システムや会計ソフトのアップデート、場合によってはERPの見直しが求められるかもしれません。Big4の間接税専門家の見解では、対応準備には数年単位の時間がかかりうるため、2027〜2028年頃から本格的な準備を始めることが推奨されています。
柱2:Platform Economy / プラットフォーム課税の拡大
ViDAの2つ目の柱は、デジタルプラットフォームへのVAT課税義務の拡大です。現在のOSSプラットフォーム規定では、電子サービスを仲介するプラットフォームはすでに「みなし供給者(deemed supplier)」として扱われ、VAT申告義務を負っています。ViDAはこれを宿泊サービス(Airbnb型)・旅客輸送サービス(Uber型)の仲介プラットフォームにも2027年から拡大します。
注目すべきは、将来的にEC物販領域にも拡大される可能性が示唆されている点です。大手ファームの解説によれば、AmazonやeBayのようなマーケットプレイスがdeemed supplierとなる範囲が広がれば、プラットフォーム側がVAT相当額を処理する仕組みが変わってくる可能性があるとされています。現在はセラー側が申告義務を負う部分が多いですが、プラットフォームがdeemed supplierになれば、申告義務が移転するケースが増えるかもしれません。
またViDAは、DAC7(デジタルプラットフォーム情報報告指令)との連携を強化する方向でもあります。DAC7は2023年より施行されており、プラットフォームがセラーの売上データをEU各国税務当局に報告する義務を定めたものです。ViDAの下ではさらに取引データの透明性が高まり、過去の申告漏れが発見されやすくなると予想されます。現在EUで越境EC販売をしている事業者は、早めの申告整備が重要です。
柱3:Single VAT Registration(SVR)/ 単一VAT登録の拡大
ViDAの3つ目の柱は、EU域内でのVAT登録負担を軽減するSingle VAT Registration(SVR)の拡大です。現在すでにEUでは、B2C越境取引に対してOSS(One-Stop Shop)という一括申告制度が2021年から導入されています。OSSを利用すれば、1カ国に登録するだけで27加盟国分のVAT申告が可能です。
ViDAのSVRはこのOSSを拡大し、従来OSSの対象外だったB2B取引やFBA型の在庫移転にも適用を広げていく方向です。具体的には、リバースチャージの適用拡大と、2020年のQuick Fixesで整備されたコールオフ在庫ルールをOSSに統合することが含まれます(コールオフ在庫ルールの廃止)。
2028年以降段階的に施行される予定のSVR拡大が実現すれば、現在Amazon FBAで複数国登録を余儀なくされている越境ECセラーにとっては、大幅な負担軽減につながる可能性があります。ただし、詳細な条件・要件はまだ最終化されていない部分もあり、引き続き動向を注視する必要があります。
施行タイムライン
ViDAは一括施行ではなく、柱ごとに段階的なタイムラインが設定されています。現時点での主なスケジュールは以下の通りです。
2025年:欧州理事会で最終合意。EU指令として確定。
2027年:プラットフォーム課税規定(宿泊・旅客輸送)施行。
2028年〜:SVR関連規定の一部施行開始。B2B取引のリバースチャージ拡大。
2030年7月:EU域内B2B取引への電子インボイス義務化・デジタル報告義務施行。
2035年:ViDA全規定の完全施行。
各加盟国は自国の電子インボイス制度をEN 16931基準に合わせる必要があり、国内実装の遅れや解釈の差異が生じる可能性もあります。Big4の間接税チームの見解では、2030年の施行に向けて、2027〜2028年頃から企業側の本格的な対応準備が必要になるとされています。段階的タイムラインは準備時間を与えてくれますが、対応を後回しにしやすいという側面もあります。
越境ECセラーへの影響
日本の越境EC事業者にとってのViDAの主な影響を整理します。
プラスの影響としては、SVR拡大によるVAT登録・申告負担の軽減が期待されます。現在、EU複数国にFBA在庫を置くために各国でVAT登録をしている事業者にとって、OSSの拡大はコスト削減と管理簡素化の可能性を意味します。EUでの複数国VAT登録・申告には年間数十万円から百万円以上のコストがかかるケースもあり、これが軽減されれば事業者にとっては大きなメリットです。
一方、新たな負担となりうる点は、電子インボイスへの対応です。B2B顧客向けのインボイス発行システムを構造化フォーマットに切り替えるには、システム投資と社内プロセスの見直しが必要になります。中小規模のセラーほど、この対応コストを相対的に重く感じるかもしれません。電子インボイス対応のソリューションも各ベンダーが提供し始めていますが、自社の取引構造に合ったものを選ぶには相応の調査が必要です。
DAC7との連携強化についても注意が必要です。2023年以降、EUのプラットフォームはセラーの売上・報酬情報を各国税務当局に提供する義務を負っています。ViDAで取引データの透明性がさらに高まれば、過去の申告漏れが発覚するリスクも高まります。現在EUで越境EC販売をしている事業者は、過去の申告状況を今一度確認しておくことをおすすめします。
Quick FixesからViDAへ:EU VATの進化の方向性
EU VAT制度の改革の流れを振り返ると、2020年のQuick Fixesは「不正防止・申告ルールの統一」を目的とした部分的修正でした。それに対してViDAは、「デジタル化による制度の抜本的合理化」を目指す包括的改革です。
この2つの改革を通じて見えてくるのは、EUが越境取引の透明性を高め、VATギャップを縮小するという一貫した方向性です。売るだけではなく、正しく申告・納税することが越境ECの前提条件になっていく時代が来ていると言えるかもしれません。日本の越境ECセラーにとっては、EU市場で事業をする以上、こうした制度変化を正確に把握し、適切なコンプライアンス体制を整備することが長期的な事業継続の条件になってくるでしょう。
今から準備しておくべきこと
ViDAの完全施行にはまだ時間がありますが、制度が動き出してから対応を始めるのでは遅いかもしれません。特に電子インボイスの対応は、システム投資を含めた準備が必要になる可能性があります。「2030年まであと数年ある」と思っていると、いざ対応を始めた時にシステムベンダーが混雑していて納期が遅れる、社内の理解を得るのに時間がかかるといった事態になりかねません。
また、SVR拡大については、「どのタイミングで現行の複数国登録からOSSに切り替えるか」という戦略的な判断も必要になります。切り替えに際しては既存の登録取り消し手続きも伴うため、税理士や専門アドバイザーとの連携が必要です。
手前味噌ですが、オプティではViDAを含むEU VAT制度の最新動向をウォッチし、クライアントへの影響分析とアドバイスを行っています。EU VATに関してご不明な点や、現在の登録・申告状況の整理についてご相談があれば、お気軽にお声がけください。