btraxブログに見る、日本企業が海外進出を苦手とする理由|越境EC税務の現場から

btraxブログに見る、日本企業が海外進出を苦手とする理由|越境EC税務の現場から

サンフランシスコに拠点を持つデザイン・ブランディングエージェンシーbtraxが公開している「日本企業が海外進出する際に乗り越えるべき10のハードルとは?」は、日本企業の海外展開における課題を鋭く指摘した記事です。

この記事を読んだとき、越境ECの税務・法務支援を日々行っているオプティの立場から、「まさにその通りだ」と深く頷く部分が多くありました。ここでは、btraxが指摘する各ポイントを引用しながら、越境ECの現場で私たちが感じていることをお伝えしたいと思います。

なお、このbtraxの記事が公開されたのは2011年です。あれから15年が経ちました。

15年前に指摘されていた課題が、2026年の今もほとんどそのまま通用してしまう——これは率直に言って、かなり衝撃的な事実ではないでしょうか。決断の遅さ、予算の出し渋り、語学への過度なこだわり、要件が固まらないまま時間だけが過ぎていく。15年間、日本企業の海外展開における構造的な課題は、本質的には何も変わっていないように思われます。

そしておそらく、このまま何も変えなければ、あと20年、30年経っても同じ記事が書かれ続けるのかもしれません。その頃にはAIが翻訳も税務申告も全て自動化しているかもしれませんが、「AIに任せる決断」すら稟議に3カ月かかる——そんな未来が見えてしまうのは、皮肉が過ぎるでしょうか。

1. 決断スピード

決断が遅く、担当者がリスクを取りたがらない故に、小さな決定事項でも上に聞かなければ動けない。ここシリコンバレー辺りだと、決断スピードが格段に速く、一説には日本の100倍とも言われる。

越境ECの税務対応でも、これは痛いほど感じる点かもしれません。たとえば「ドイツでVAT登録をすべきか」という判断一つとっても、「社内で検討します」から半年が過ぎ、その間にAmazonからアカウント停止の警告が届く——というケースは珍しくないように思われます。やはり「やらないリスク」を考慮し、小さくても前に進む決断をしないかぎり、機会損失は膨らみ続けるかもしれません。

2. 日本での成功

日本で成功してしまってるために、失う物があり下手に動けない。また、失敗しても帰る所があるので、命を掛けない。

国内市場で十分な売上がある企業ほど、海外展開に対して腰が重くなる傾向があるように思われます。「国内でうまくいっているから、わざわざリスクを取らなくても」という心理は理解できますが、やはり国内市場の縮小トレンドを考えると、いつかは海外に目を向けざるを得ない時期が来るのではないでしょうか。その「いつか」が来たとき、準備ができていないと、スタートラインに立つだけで1〜2年を費やしてしまうかもしれません。

3. 語学へのアプローチ

英語の能力にこだわりすぎるため、英語が出来るまで海外展開を行わない。海外に出てから語学を勉強し始める。

これは越境ECにおいても全く同じ構図だと思われます。「英語ができないから越境ECは無理だ」→「だから海外展開そのものを先送りにする」という思考パターンに陥っている企業は少なくないかもしれません。しかし実際には、越境ECの税務や法務手続きの多くは、日本語で対応できる専門家のサポートを得ることで解決可能です。語学力が完璧になるのを待っていたら、永遠に海外には出られないのではないでしょうか。まずは「売る」ことに集中し、言語の壁は専門家に任せるという割り切りが、海外展開のスピードを左右するかもしれません。

4. 大きな成功への固執

大きな額と投資話や、会社の売却額にとらわれすぎていて、着実な日銭稼ぎが出来ていない。大きな成功は小さな一歩から始まる。

越境ECでも「一気に10カ国展開したい」「全EU加盟国でVAT登録したい」という壮大な計画を立てて、結局どこにも進出できないケースがあるように思われます。やはり、まずは売上が最も見込める1カ国から始めて、そこで成功体験を積んでから次の国に展開するという地道なアプローチを取らないかぎり、いつまでも「計画倒れ」に終わってしまうかもしれません。大きな成功は、小さな一歩の積み重ねから始まるのだと思います。

5. マーケットに対しての理解

国内向けのやり方に慣れすぎている為に、海外マーケットに合った商品・サービスを考えられない。日本国内のマーケットは世界的に見てもかなり特殊だと言える。

税務もまさにそうかもしれません。日本の消費税制度に慣れていると、EU27カ国それぞれ異なるVAT税率、米国50州のSales Tax、アジア各国のGSTなど、「国ごとに全く違うルール」という現実に面食らう方が多いように思われます。日本国内の感覚で「消費税みたいなものでしょ」と捉えてしまうと、大きな誤算が生じるかもしれません。

6. 謙虚すぎる

謙虚が美徳とされない海外で、遠慮がちなプレゼンテーションだと良さが伝わりにくい。1を10に見せる必要あり。

これは越境ECの商品プレゼンテーションにも通じる話だと思われます。ただ一方で、税務コンプライアンスの世界では謙虚さも重要です。税務当局に対して「大丈夫です、問題ありません」と言い切ってしまうよりも、「念のため確認させてください」という姿勢の方がリスクを減らせる場面も多いのではないでしょうか。攻めるところは大胆に、守るところは慎重に——このバランスが海外展開では求められるかもしれません。

7. 真面目すぎる

真面目で誠実が故に、出来ない事は出来ないと言い、下手に風呂敷は広げない。海外では多少型破りな方が前に進みやすい。

やはり日本企業の誠実さは海外でも高く評価される美徳だと思われます。ただ、税務の世界では「できるかどうかわからないからやらない」という姿勢は、コンプライアンスリスクの放置につながりかねません。完璧に理解してから動くのではなく、専門家と一緒に走りながら理解を深めていくというアプローチを取らないかぎり、スピード感のある海外展開は難しいかもしれません。

8. 予算を掛けない

大きな成功への夢を見ているわりには、実際の予算は驚く程低い。お金はあるのに、リスクを取りたがらない。海外進出を計画しているはずの企業が二言目には、「でも予算が無いので…」となってしまう。

これは越境ECの税務対応でも日常的に感じることかもしれません。年間数千万〜数億円の海外売上を目指しているのに、税務コンプライアンスの予算は「できれば数万円で」というご相談は珍しくないように思われます。税務対応にかかるコストは、海外で稼ぐための「参入チケット代」のようなものです。やはりここに適切な予算を確保しないかぎり、売上が伸びたときに大きなリスクを抱えることになるかもしれません。

9. 取引先や従業員は日本人を優先する

海外展開を考えているわりには、妙に日本との取引きをしたがり、人材も日本人を採用したがる。現地の優秀な人材や企業と第一線でやり取りをしたければ、日本人に対する同族意識を一回忘れた方が良い結果に繋がる事もある。

税務の世界では、現地の事情に精通した現地のファームと連携することが不可欠です。ただ、現地ファームと直接やりとりするには言語だけでなく、商習慣や期待値の違いを乗り越える必要があります。やはり「日本語で相談できる窓口」と「現地の専門家ネットワーク」の両方を持つパートナーと組まないかぎり、このジレンマは解消しにくいかもしれません。IT業界でいう「ブリッジコンサルタント」のような存在が、国際税務でも求められているのだと思われます。

10. ビジネスプランが出来ていない

ネットサービス等、面白い企画は多いが、収益モデルが確立できていない。ユーザ数だけでは投資家は動かない。

越境ECにおいても、「売れそうだから出品する」という段階から「収益モデルとして成立させる」段階に移行するには、税務コストを含めた損益計算が不可欠です。VATの負担率、関税、EPR費用、物流コスト——これらを織り込まないビジネスプランは、やはり「計画」とは呼べないかもしれません。逆に言えば、これらのコストを正確に把握できれば、より精度の高い事業計画が立てられるはずです。

特に大手企業ほど動きが遅い

btraxの指摘は企業規模を問わず当てはまりますが、やはり特に大手企業ほどこの傾向が顕著だと思われます。意思決定に関わるステークホルダーが多く、稟議のプロセスが複雑で、一つの決定に数カ月を要することも珍しくありません。海外の税制変更や規制強化はそのスピードを待ってくれないにもかかわらず、社内の承認プロセスが追いつかないという構造的な問題を抱えているケースが多いように思われます。

私も、PIVOTでの対談「グローバルECの新常識|TAXテクノロジー」の中で、日本企業——特に大手企業の意思決定の遅さが越境ECの税務対応において大きなリスクになっている点を指摘しています。税制の変更や規制の施行は待ってくれません。「検討中」の間にも税務リスクは積み上がり続けているかもしれません。

また、PIVOTのランディングページ(OPTI x Shopify x PIVOT 越境ECにおけるTAXテクノロジー活用)では、越境ECの国際間接税リスクについてより詳しく解説しています。

越境ECの「最初の一歩」を踏み出すために

btraxの指摘する10のハードルは、そのまま越境ECの税務・法務対応にも当てはまる部分が多いように思われます。決断の遅さ、予算の不足、語学への過度なこだわり、完璧主義——どれも「前に進めない理由」として共通しています。

手前味噌ですが、オプティではこうした課題を熟知したうえで、越境EC事業者の海外展開を税務・法務の面から支援しています。問題の分解と整理、優先順位の策定、段階的な実行——まずは小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。

オプティのサービスについてはこちらをご覧ください。

btrax元記事:「日本企業が海外進出する際に乗り越えるべき10のハードルとは?