Peppolとは何か|デジタルインボイスの世界標準と各国の「方言」問題
越境ECの税務に携わっていると、最近避けて通れなくなってきたのが『デジタルインボイス』の話題です。私はかつて外資系ファームで欧州に滞在していた際、各国のインボイス制度の違いに驚いた経験がありますが、今やその違いがデジタルの世界でも再現されているように感じます。
今回は、デジタルインボイスの世界標準として注目される「Peppol(ペポル)」について、その概要と各国独自の「方言」問題、そして越境EC事業者への影響をお伝えしたいと思います。
Peppolとは何か
Peppolとは、Pan-European Public Procurement OnLineの略称です。もともと2008年にEUの公共調達の電子化プロジェクトとして始まりましたが、現在は電子インボイスの国際的な交換ネットワークとして大きく発展しています。
運営はOpenPeppolという非営利団体が担っており、各国の認定アクセスポイントを通じて企業間でデジタルインボイスを安全にやり取りできる仕組みです。
Peppolが採用している「4コーナーモデル」は、送信者→送信側アクセスポイント→受信側アクセスポイント→受信者という4つの接点を経由してインボイスを届ける構造です。このモデルにより、異なるシステムを持つ企業同士でも、互換性のあるデータ交換が可能になります。
Peppolに参加するためには、認定アクセスポイント(AP)と呼ばれるサービスプロバイダーを介する必要があります。日本ではデジタル庁が認定機関となっており、複数のAPが既に稼働しています。
Peppolの「方言」問題
ここからが、私が最も伝えたい部分です。Pageroジャパンさん(現在はThomson Reuters傘下)との情報交換の中で学んだのですが、Peppolは「国際標準」を謳いながらも、実際には各国でいわゆる「方言」のような独自仕様が存在しています。
代表的なものを挙げると、日本のPeppol BIS(JP PINT)、シンガポールのInvoiceNow、オーストラリア・ニュージーランドのA-NZ PINT、イタリアのSDI連携などがあります。それぞれがPeppolという「標準」の上に乗りながらも、フォーマットや必須項目、税務上の要件が微妙に異なっているのです。
たとえば、ある国では税番号の記載形式が異なったり、別の国では特定の項目が必須だったりと、「同じPeppol準拠なのになぜ?」という場面が越境取引では頻繁に起こりえます。これは単なる仕様の違いではなく、各国の税務当局が自国の税制に合わせてカスタマイズしていることに起因しており、一筋縄ではいかない複雑さを生んでいます。
日本のデジタルインボイス事情
日本では2023年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートしました。これとは別の文脈で、デジタル庁が推進しているのがPeppol準拠のデジタルインボイス「JP PINT」です。
世界的に見ると、日本はデジタルインボイスにおける後発国といえるかもしれません。欧州では2010年代から本格的な電子インボイスの義務化が進んでいた一方、日本でその議論が本格化したのはここ数年のことです。
ただ、JP PINTがPeppol準拠を選択したことは、長期的には国際標準との互換性が確保される方向に進むと思われます。将来的には越境取引においても、PeppolネットワークによるデジタルインボイスのやりとりがECの標準的なフローになる可能性は十分にあるでしょう。
世界のデジタルインボイス最前線
世界に目を向けると、デジタルインボイスの義務化はすでに相当のスピードで進んでいます。
イタリア
世界で最も進んでいる国のひとつがイタリアです。2019年からB2B(企業間)の電子インボイス義務化をSDI(Sistema di Interscambio)というシステムを通じて実施しており、現在はほぼすべての取引が電子化されています。
ポーランド
ポーランドはKSeF(Krajowy System e-Faktur)を段階的に導入中です。当初の義務化スケジュールは延期になりましたが、方向性は変わっておらず、B2B電子インボイスの完全義務化に向けて進んでいます。
インド・サウジアラビア
インドでは一定規模以上の事業者にe-Invoice制度がすでに義務化されており、GST番号と連動した電子インボイスの発行が求められています。サウジアラビアでもZATCA(ザトカ)によるFatoorahと呼ばれる電子インボイスシステムが段階的に展開されています。
EU全体
EU全体では、ViDA(VAT in the Digital Age)という欧州委員会の取り組みにより、2030年からB2B電子インボイスの義務化が予定されています。これが実現すれば、EU域内のほぼすべての企業間取引が電子化されることになります。
マレーシアのe-Invoice制度
越境ECにおいて近年特に注目すべきはマレーシアの動向です。マレーシアは2024年8月から段階的にe-Invoice制度を導入しています。
LHDN(内国歳入庁)が運営するMyInvoisプラットフォームを中心に、以下のスケジュールで展開されています。
2024年8月: 年間売上高が1億リンギット超の企業から義務化。2025年1月: 年間売上高2,500万リンギット超の企業へ拡大。2025年7月: 全事業者への拡大が予定されています。
注目すべき点は、マレーシアがPeppol準拠ではなく、独自のXMLフォーマットを採用していることです。つまり、マレーシア向けにe-Invoiceを発行するには、Peppol対応とはまた別の対応が必要になります。
越境EC事業者にとっては、マレーシア向けの販売においてe-Invoice対応が必要になってくる可能性があります。まだ「関係ない」と思っている方も、早めに状況を把握しておくことをお勧めします。
台湾のe-GUI(電子發票)と私たちの支援経験
台湾には、独自の電子インボイスシステム「e-GUI(電子發票)」があります。財政部が管轄するこの制度では、台湾での取引においてe-GUIの発行が事業者に義務付けられており、Peppolとはまったく異なる仕組みです。
中国語ベースのシステムで、インターフェースや手続きの多くが中国語のみで提供されています。台湾語環境に不慣れな海外事業者にとっては、対応のハードルが相当高いと感じる方も多いのではないでしょうか。
手前味噌ですが、私たちオプティがこの分野で直接支援した経験があります。あるデジタルEC企業が台湾で事業を展開する際、e-GUIへの対応を行わないまま販売を続けていたケースがありました。私たちがこの企業のe-GUI対応を支援し、現地の税制に準拠した形での事業継続をサポートした経験があります。
「e-GUIはやらなくてもバレない」と思われがちですが、台湾の税務当局は近年取り締まりを強化しています。未対応のままでいると、後々大きなリスクを抱えることになりかねません。
まとめ:「知らなかった」では済まされない時代
デジタルインボイスは、もはや一部の先進国だけの話ではありません。アジア、中東、欧州と、世界中で電子インボイスの義務化が加速しており、越境ECに関わる事業者にとって避けて通れない課題となっています。
Peppolという「標準」が存在しながらも、各国で「方言」のような独自仕様が生まれていることは、対応の複雑さをさらに増しています。制度を理解し、準備することが、越境ビジネスの継続に不可欠な要素になってきていると私は感じています。
「どこから手をつければいいかわからない」という方も、ぜひ一度、越境ECの税務に詳しい専門家にご相談されることをお勧めします。
越境ECの税務対応でお悩みの方は、ぜひオプティのサービスページもご覧ください。